平成29年4月から短時間労働者の適用対象が広がります

平成28年10月1日から、厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の企業に勤務する短時間労働者が、厚生年金保険等の適用対象となりました。

 

短時間労働者とは、勤務時間・勤務日数が常時雇用者の4分の3未満で、下記の①~④のすべての要件に該当する方となります。

①週の所定労働時間が20時間以上であること

週の所定労働時間とは、就業規則、雇用契約書等によって、その者が通常の週に勤務すべき時間となります。

②雇用期間が1年以上見込まれること

  • 期間の定めがなく雇用される場合
  • 雇用期間が1年以上である場合
  • 雇用期間が1年未満であり、雇用契約書に契約が更新される旨が明示されている、または、同様の雇用契約で雇用された者が更新等により1年以上雇用された実績がある場合

 

③賃金の月額が8.8万円以上であること

週給、日給、時間給を月額に換算したものに、各諸手当等を含めた所定内賃金の額が8.8万円以上である場合となります。ただし、次に掲げる賃金は除かれています。

  • 臨時に支払われる賃金および1か月を超える期間ごとに支払われる場合(例えば、結婚手当、賞与等)
  • 時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金(例えば、割増賃金等)
  • 最低賃金法で算入しないことを定める賃金(例えば、精勤手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当)

 

学生でないこと

ただし、次に掲げる方は被保険者となります。

  • 卒業見込証明書を有する方で、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の方
  • 休学中の方
  • 大学の夜間学部および高等学校の夜間等の定時制の課程の方

 

厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の企業に勤務する短時間労働者に加えて、平成29年4月から被保険者数が常時500人以下の企業のうち、次の①または②に該当する事業所に勤務する短時間労働者も厚生年金・健康保険の適用対象となり、その対象が広がりました。

 

①労使合意(働いている方々の2分の1以上と事業主が社会保険に加入することについて合意すること)に基づき申出をする法人・個人の事業所

②地方公共団体に属する事業所

短時間労働者に該当する方を採用した場合は、速やかに短時間労働者用の「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出することになります。

また、労使合意に基づき申出をする場合は、労働者の同意を得たことを証する書類(同意書)を添付の上、本店または主たる事務所の事業主から「任意特定適用事業所申出書/取消申出書」を提出します。

同意書については、いろいろなパターンの書式があるので日本年金機構のホームページをご参考になさってください。

 

国民年金の強制徴収の対象者拡大

国民年金保険料の納付は、国民の義務となっており、保険料を納付しない方に対しては強制徴収という制度がとられることになっています。

サラリーマンの方などは、厚生年金保険料を会社のお給料から天引きされるので未納ということはほぼ考えられないのですが、国民年金保険料の場合は、自営業の方などとなるためこのような天引きということも行えないことから、どうしても未納ということも起きてしまいます。

 

国民年金保険料は、納付が経済的に難しときは保険料免除納付猶予という制度もあります。

保険料免除や納付猶予になった期間は、年金の受給資格期間(25年間)に算入されます。年金は、せっかく納付していた期間があってもこの受給資格期間、現在は25年間の納付がない場合は受給できないことになっています。また、年金額を計算する場合も、保険料を納めていない免除期間であっても、保険料を納めた時の2分1(平成21年3月までの免除期間は3分の1)は年金の支給額に反映されます。(納付猶予になった期間は年金額には反映されません。)どうしてもというときは、未納のままにしておかないで、必ず免除や納付猶予の手続きをするようにしましょう。

 

所得が一定以上ある方に対しては、保険料免除や納付猶予ということにはならないので、国民年金保険料の未納が続くと最終的には強制徴収ということになってきます。強制徴収と言っても滞納していた人すべてが強制徴収の対象となるのではなく、「十分な保険料負担能力があり、度重なる納付督励を行ったにもかかわらず、保険料の納付がない場合」に、強制徴収で財産差押えということになります。

 

現在は、「所得350万円以上」で、「未納月数が7か月以上」の人に対して、この強制徴収が行われることになっています。

 

直近の国民年金の納付率をみてみると、平成28年4月~9月までの納付率が平成28年10月末時点で59.1%となっており、前年度と比べると2.4ポイント増加していますが、まだまだ納付率が高いとはいえない状況となっています。

 

このような状況もあり、公的年金の公平性という観点から、日本年金機構は新年度から強制徴収の対象者を「所得300万円以上」で「未納月数13カ月以上」に変更すると発表しました。

未納月数は7カ月から13カ月以上に伸びますが、強制徴収の対象者は増加し、現在の強制徴収の対象者27万人が約9万人増加して36万人程度になる見通しとなっています。

 

強制徴収の流れとしては

  1. 滞納が続いている人に文書や電話、個別訪問などで納付を要請
  2. 要請に応じなければ「催告状」を送付
  3. 日本年金機構は、国税徴収法に則り、市町村から情報を得るなどして所得を確認し、強制徴収の対象者に「特別催告状」を送付
  4. 最終催告状送付後、指定期限までに納付されないものに対しては「督促状」が送付
  5. 督促状の指定期限までに納付されない場合は、滞納処分が開始され、延滞金が課せられる
  6. 預貯金の残高などの財産調査が行われる
  7. 「差押予告」を送付
  8. 強制執行によって財産の差し押さえが行われる

 

もし、本人が納付できない場合、滞納者本人の財産だけでなく、滞納者の世帯主や配偶者といった連帯納付義務者である親族の財産まで差押えが及ぶこともあるので注意が必要です。

海外勤務者の社会保険

前回のお役立ちコラムでは、「海外勤務者の源泉徴収」について触れましたが、今回は、海外勤務者の社会保険料について考えてみたいと思います。

海外勤務者の場合は、①在籍型出向で出向元の国内企業から給与の一部または全部が支払われている場合、②在籍型出向だが国内企業からは給与が支払われない場合および移籍型出向の場合で、その取扱いが異なっています。

まず①の在籍型出向で出向元の国内企業から給与の一部または全部が支払われている場合についてみていきます。

在籍型出向の場合は、日本の企業との雇用関係を維持したまま海外で勤務することになりますが、出向元の日本の企業から給与の一部または全部が支払われているときは、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の被保険者資格は継続することになります。したがって、社会保険料の負担も労使共に生じることになります。

健康保険についてですが、まず海外勤務者が日本に一時的に帰国した際は日本に暮らす方と同様で健康保険を利用することができます。一方、海外でかかった医療費については、いったんは海外勤務者本人が立て替えし、後日申請手続きを行って、一部支給してもらうことになります。

具体的な手続きとしては、「療養費支給申請書」を記載し、領収証明書を添えて保険者に申請します。領収証明書が外国語で書かれている場合には日本語の翻訳文を添付する必要があります。また、海外勤務者からの支給申請は、原則として事業主を経由して行い、支給された療養費は事業主が代理で受領します。したがって、保険者から外国送金は行われません。

また、平成28年4月1日からさらに次の添付書類が必要になりました。

  1. 旅券、航空券その他海外に渡航した事実が確認できる書類の写し
  2. 保険者が海外療養の内容について当該海外療養を担当した者に照会することの同意書

 

次に、介護保険料については、海外では介護保険のサービスを受けることができないので、住民票を除票していれば、介護保険料を支払う必要はありません

雇用保険についても在籍型出向の場合は、継続しますが、失業給付等を受ける場合は帰国した時しか受給はできません。

 

今度は、②の在籍型出向で国内企業から給与が全く支払われていない場合および移籍型出向の場合についてみていきます。

移籍型出向の場合、日本の出向元との雇用関係はいったん終了し、勤務先の国の現地法人等との雇用関係となります。したがって、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の被保険者資格は喪失するため、継続できません。

健康保険を継続させるには、健康保険の任意継続被保険者の手続きを行うことが考えられます。ただし、最長2年までしか加入はできません。

もう一つ、国民健康保険に加入するということも考えられます。しかし、この場合も、国民健康保険は市区町村に居住する人を対象としているため、住民票を除票しているときは加入はできないということになります。

次に、介護保険につていですが、こちらは①の場合と同様、海外では介護保険サービスを受けることはできないので、住民票を除票していれば保険料も不要となります。ただし、国民健康保険に加入している場合は、住民票の除票ができないため、国民健康保険料と併せて介護保険料も納付しなければなりません。

厚生年金も継続できませんが、対応策としては国民年金に任意加入するという選択肢があります。

以上のように、在籍型出向で国内企業から給与が全く支払われていないまたは移籍型出向でも、健康保険を任意で継続したり、厚生年金が継続できないため国民年金に任意加入という手続きもありますので、参考にしてみてください。

通勤災害の範囲

労災保険の適用にあたって、これは通勤災害に該当するのか?という問題が生じることがあります。

まず、通勤とは、労働者が就業に関して、下記に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいいます。

  1. 住居と会社との間の往復
  2. 兼業している人は、最初の会社から他の次の会社への移動
  3. 赴任先住居から帰省先住居間の移動

この移動が、業務に就くため、または業務を終了したことにより行われる必要があります。

例えば、次のようなものは業務との関連性が認められます。

  • 寝過してしまって遅刻した場合
  • ラッシュを避けるために早出した場合
  • 時間的に若干の前後があった場合
  • 昼休み等終業の時間の間に相当の間隔があるため帰宅する場合

 

逆に次のような場合は業務関連性が認められません。

  • 運動部の練習に参加する等の目的で、午後の遅番の出勤者である者が朝から住居を出るなど、所定の就業開始時刻とかけ離れた時刻に会社に行く場合
  • ハローワーク等でその日の紹介を受けるために住居からハローワークまで行く行為

 

また、通勤の途中で、仕事とは関係のない目的で通勤経路をそれたり(逸脱)、通勤の途中で通勤とは関係のない行為を行ったり(中断)すると、逸脱・中断中もそれ以後も原則として通勤と認められないため、通勤災害の認定において問題になるケースもあります。

ただし、下記のような些細な行為については、逸脱・中断とはされません。

  • 経路の近くにあるトイレを使用する場合
  • 駅の売店などで飲み物などを購入する場合

 

これに加えて、逸脱・中断が日常生活上必要な行為であって、やむを得ない事由により行う最小限度のものである場合については、合理的な経路に復した後は、例外的に通勤と認められています。

例えば、次のような行為となります。

  • 日用品の購入のためにスーパーに立ち寄る
  • 出退勤の途中で美容院に立ち寄る
  • 職業訓練・教育訓練を受ける行為
  • 選挙権の行使
  • 病院で診察・治療を受けること
  • 柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の施術を受けること
  • 要介護状態の配偶者・子・父母,
  • 要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母、並びに同居しかつ扶養している、孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的または反復的に行われるものに限る)

 

事業主の方からすると、もしもの事故のときは労災の保険給付で賄いたいと考えていると思います。

では、事故の可能性が高いと思われるマイカー通勤を許可している事業所の場合について考えてみます。

 

マイカー通勤中の事故で会社が責任を負う可能性は100%ないとは限らないので、下記の点に注意が必要です。

  • 任意保険に加入しているかどうかを必ず確認する。
  • マイカー通勤許可申請書等を作成するなどして、確実に確認する。(運転免許証・保険証券のコピーの添付をしてもらいましょう)
  • 通勤経路申告書を作成してもらい、通勤経路を把握する。

 

また、マイカー通勤規定の作成も有効です。

マイカー通勤規定の中で、例えば「許可の条件」を次のように設定するとよいでしょう。

  • 運転経験○年以上(例えば2年以上)
  • 身体および精神に異常または欠陥がない者
  • 自賠責のほか、任意保険(対人:無制限、対物:無制限)に加入している者
  • 通勤のための公共交通機関がないこと、または極めて不便であること

 

また「禁止事項」として、次のような定めをしておくとよいと思います。

  • マイカーを業務に使用すること
  • 拘束時間中に私用でマイカーを使用すること
  • マイカーに文字・ステッカー等を用いて、社用車と見られるような表示をすること
  • 飲酒や過度の疲労等、安全運転が困難と予想される状態で運転すること
  • 整備不良の車両を使用すること
  • その他、道路交通法令により禁止されている行為をすること

 

さらに、マイカー通勤中に起こした事故について会社は責任を負わない旨や駐車場におけるマイカー同士の事故や盗難についても責任を負わない旨も規定するとよいでしょう。

雇用契約書の作成は必要でしょうか?

従業員を採用する際に作成することが考えられる書類として、「雇用契約書」と「労働条件通知書」があります。では、この二つの書類はどのような違いがあるのでしょうか?

「雇用契約書」は労使双方が署名や押印をして労働条件について契約を締結(合意)するものであるのに対して、「労働条件通知書」は使用者側が労働者に対して一方的に通知するものであるという違いがあります。

 

まず、「労働条件通知書」についてですが、こちらは労働基準法15条を根拠法としています。

(労働基準法15条)

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

 

つまり、「労働条件通知書」は作成義務があるということになります。

 

一方、「雇用契約書」は労働契約法4条2項を根拠としています。

(労働契約法4条2項)

労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

 

条文を読む限り、「できる限り書面により」となっているだけで「雇用契約書」の作成は任意ということになります。

 

では、従業員を採用する際、「雇用契約書」は作成する必要はないのでしょうか?

「雇用契約書」は労使間のトラブルを防止する観点から雇用契約書は作成することをお勧めします。実際に、契約内容の行き違いでトラブルになるケースが増えてきています。このようなトラブルは従業員が退職する際に起こることが多くなっていますが、「言った」「言ってない」という論争を防ぐためにも従業員を採用したときは「雇用契約書」は作成するようにしましょう。

 

前述した通り、「労働条件通知書」は必ず作成しなければならないので、

  1. 「労働条件通知書」と「雇用契約書」をそれぞれ別々に作成する
  2. 「雇用契約書」のなかに「労働条件通知書」の必須記載事項を入れて作成する(雇用契約書兼労働条件通知書)

というパターンが考えられます。

1の場合は、二つの書類を作成しなければならない手間はありますが、本来は違う目的の書類なのではっきり分けることができるというメリットがあります。2の場合は、一つにまとめて作成するので管理もラクですが、雇用契約書の記載事項に含まれないことが労働条件通知書には含まれている部分があるので、合意が必要ない部分についても契約の締結が必要になるというデメリットがあります。

 

それぞれのメリット・デメリットや違いを考えて作成してみてください。

高額療養費の「限度額適用認定証」

利用されたことがある方もいらっしゃるかと思いますが、入院したときなど医療機関の窓口での支払いが高額となった場合に、申請することによって自己負担限度額を超えた額が払い戻される高額療養費制度というのがあります。

この場合、後でお金が返ってくるとはいえ、先に医療機関へ支払わないといけないので大きな負担となってしまいます。

 

そこで、70歳未満の方が入院や外来で診療を受ける場合に、「限度額適用認定証」を保険証と併せて医療機関の窓口に提示することによって、入院時等の1ヶ月(1日から月末まで)の窓口での支払いが自己負担限度額までとなり、窓口で支払う金額を軽減することができます。

70歳以上の方は、「高齢受給者証」を保険証と併せて提示することによって、窓口での支払いを自己負担限度額までとすることができます。

 

限度額適用認定証」の発行は

1.入院等が決まったら、協会けんぽのホームページ等にある「健康保険限度額適用認定申請書」に必要事項を記入して、加入している協会けんぽ都道府県支部(保険証に記載されています)へ郵送で申請する。

↓ 一週間程度

2.申請書に記入した送付先へ、「限度額適用認定証」が届く。

3.受診するときに保険証と併せて「限度額適用認定証」を提示すると、窓口での支払いが自己負担限度額までで済む。

という流れになります。

※70歳以上75歳未満の方は申請の必要はありません。

 

入院となると思わぬ出費となることが考えられるので、そんなときはこの「限度額適用認定証」の申請をおすすめします。

協会けんぽホームページ⇒https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3030