印紙税の取扱いと注意点

印紙税は、商売をされている方にとっては身近な税金だと思います。作成した契約書や領収書などの課税文書に所定の金額の印紙を貼りつけ、印紙と文書にかけて印章または署名で消印することによって納付します。この消印は、印紙の再使用を防止するためのものなので、例えば複数の人が共同で作成した契約書であっても、作成者のうち誰か1名が消印を行えば問題ありません。

国税庁は「契約書や領収書と印紙税(平成29年5月)」をホームページに掲載していますので、印紙税の金額等について参考になさってください。

印紙税は文書に課税されるものですが、課税されるかどうかの判断は、当該文書の名称、呼称や記載されている文言により形式的に行うのではなく、実態で判断することになります。例えば「売買契約書」というタイトルになっていても、中身が請負の内容であれば「請負に関する契約」(第2号文書)として扱われます。


印紙税の節税について考えてみたいと思います。

Ⅰ 消費税抜きで表記する

例えば、商品の代金をいただいて領収書を発行する場合、5万円以上となる場合は印紙を貼らなければいけません。

消費税の課税事業者が、消費税の課税対象取引に当たって契約書や領収書などの課税文書を作成する場合に、①消費税の金額を区分して記載しているとき、②税込価格および税抜価格が記載されていることにより、その取引に当たって課されるべき消費税の金額が明らかとなる場合には、その消費税の金額は印紙税の記載金額に含めないこととされています。なお、この取扱いの適用がある課税文書は、次の3つに限られています。

  1. 第1号文書(不動産の譲渡等に関する契約書)
  2. 第2号文書(請負に関する契約書)
  3. 第17号文書(金銭又は有価証券の受取書)

具体的な例をあげて説明すると次のようになります。

(1)広告の請負契約書で税込1,080万円の場合

「請負金額1,080万円うち消費税額等80万円」と記載したとします。この場合、消費税額等80万円は記載金額に含めず、記載金額1,000万円の第2号文書となり、印紙税額は1万円となります。

また、「請負金額1,080万円 税抜価格1,000万円」と税込価格及び税抜価格の両方を具体的に記載している場合についても、消費税額等が容易に計算できることから、記載金額は1,000万円の第2号文書となります。

しかし、消費税額等について「うち消費税額等80万円」ではなく、「消費税額等8%を含む。」や「請負金額1,080万円(税込)」と記載した場合には、消費税額等が必ずしも明らかであるとはいえないので、記載金額は1,080万円と取り扱われてしまい、第2号文書の場合、印紙税額は2万円となります。

(2)金銭の領収書で税込51,840円の場合

「商品販売代金48,000円、消費税額等3,840円、合計51,840円」と記載したとします。この場合、消費税額等の3,840円は記載金額に含めないので、記載金額48,000円の第17号の1文書となります。したがって、記載金額が5万円未満(平成26年3月31日以前に作成されたものについては、3万円未満)の領収書は非課税文書となりますので、印紙税は課税されません。

上記はあくまでも消費税の課税事業者の場合の取扱いになるので、消費税の免税事業者については、消費税の具体的な金額を区分記載したとしても、これに相当する金額は記載金額に含めることになるのでご注意ください。

 

Ⅱ コピーを利用する

契約当事者のどちらか一方のみが契約書の原本を持ち、もう一方はコピーを持つ場合には、そのコピーについては印紙の貼りつけは不要となります。

ただし、次のような形態のものは印紙税の課税対象となります。

1.契約当事者の双方又は文書の所持者以外の一方の署名又は押印があるもの。

2.正本などと相違ないこと、又は写し、副本、謄本等であることなどの契約当事者の証明のあるもの、つまり原本証明をしているもの。

なお、所持する文書に自分だけの印鑑を押したものは、契約の相手方当事者に対して証明の用をなさないものとなるので、課税対象とはなりません。
また、契約書の正本を複写機でコピーしただけのもので、上記のような署名若しくは押印又は証明のないものは、単なる写しにすぎませんから、課税対象とはなりません。また、ファックスや電子メール等により送信する場合も正本等は送付元に保存され、送付先に交付されておらず、送付先で出力された文書は写しと同様であり、課税対象とはなりません。

 

Ⅲ 外国で契約書が作成される場合

印紙税法は日本の国内法なので、その適用地域は日本国内に限られます。

したがって、課税文書の作成が国外で行われる場合には、たとえその文書に基づく権利の行使が国内で行われるとしても、また、その文書の保存が国内で行われるとしても、印紙税は課税されません。つまり、いつ、どこで作成されたものであるかを判断して、課税となるかどうかが決まることになります。

印紙税法の課税文書の作成とは、単なる課税文書の調製行為をいうのではなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これをその文書の目的に従って行使することをいいます。

そのため、相手方に交付する目的で作成する課税文書(例えば、株券、手形、受取書など)は、その交付の時になり、契約書のように当事者の意思の合致を証明する目的で作成する課税文書は、その意思の合致を証明する時になります。

例えば、アメリカの会社A社と日本の会社B社が不動産の売買契約をした場合で、B社が契約書を2通作成し署名押印して相手方B社に郵送し、A社はこれに署名して1通をB社に返送した場合、その契約当事者の残りのA社が署名等するときに課税文書が作成されたことになり、その作成場所は国外なので、当該契約書には印紙税法の適用はないことになります。

ところで、返送された1通の契約書はB社において保存されることになるので、いつ、どこで作成されたものであるかを明らかにしておかなければ、印紙税の納付されていない契約書について後日トラブルが発生することが予想されます。したがって、契約書上に作成場所を記載するとか、契約書上作成場所が記載されていなければその事実を付記しておく等の措置が必要になります。

また、文書の作成方法が逆の場合、つまり、アメリカのA社で課税文書の調製行為を行い、A社が署名等をした上でB社に送付され、B社が意思の合致を証明する場合には、B社が保存するものだけではなく、A社に返送する契約書にも印紙税が課税されることになります。

 


では、本来印紙税を貼らなければならない契約書や領収書などの課税文書に印紙を貼らなかった場合どうなるのでしょうか?

印紙税を納付することとなる課税文書の作成者が、その納付すべき印紙税を課税文書の作成の時までに納付しなかった場合には、その納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額、すなわち当初に納付すべき印紙税の額の3倍に相当する過怠税が徴収されることになります。

具体的に計算してみると、例えば2万円の印紙を貼らなければならない契約書に印紙を貼っていなかった場合、2万円+2万円×2=6万円の過怠税が課されます。過怠税となった6万円は全額が法人税の損金や所得税の必要経費に算入されない(経費にできないイメージ)ので注意が必要です。

ただし、税務調査を受ける前に、自主的に不納付を申し出たときは1.1倍に軽減されます。

また、貼りつけた印紙を所定の方法によって消印しなかった場合には、消印されていない印紙の額面に相当する金額の過怠税が徴収されることになります。

法人税等の税務調査が行われる際は、付随的に印紙税についても確認されることがあるのでご注意ください。

 


次に、あまりないケースかもしれませんが、国等と締結した請負契約書の印紙税の取扱いについてみていきます。

国等(国、地方公共団体、法別表第2に掲げる者)が作成した課税文書については、法第5条により印紙税は非課税になります。

また、国等と国等以外の者が共同作成した課税文書については、国等が保存するものは国等以外の者が作成したものとみなし、国等以外の者が保存するものは国等が作成したものとみなします(法第4条第5項)。

つまり、国等以外の者が所持する請負契約書は非課税文書(印紙税が貼られていない請負契約書)となり、国等の所持するものは納税義務者となる第2文書(請負に関する契約書)として課税の対象(印紙税が貼られている請負契約書)になります。

ちょっと不思議な感覚かもしれませんが、国等が所持する契約書は印紙が貼られたもので、国等以外の者が所持する契約書には印紙が貼られていないということになります。

 

契約書に印紙税を貼り忘れていたとしても、その契約自体が無効になるわけではありませんが、貼り忘れなどには十分ご注意ください。

所得拡大促進税制の見直し

所得拡大促進税制は平成25年度税制改正で創設された税制で、平成24年度給与支給総額からの増加額の10%を税額控除できる制度ですが、平成29年度税制改正において、引続き高い賃上げを行う企業を支援するとともに、大企業と中小企業の賃金水準の格差が拡大している中で、高い賃上げを行う中小企業への支援が強化されました。

こちらでは、中小企業の場合について説明していきます。

現行の所得拡大税制では次の3つの要件を満たしている必要があります。

【要件】

  1. 平成29年度の給与等支給額の総額が平成24年度と比較して3%以上増加していること
  2. 給与等支給額の総額前事業年度以上であること
  3. 平均給与等支給額前事業年度を上回ること

平成29年度改正で、上記3の要件について次のように改正されました。

《中小企業の場合》 

賃上げ率が

2%未満の場合

税額控除10%を維持

(雇用者給与等支給増加額×10%)

賃上げ率が

2%以上の場合

雇用者給与等支給増加額×10%+

前年度からの増加額×12%

(合計22%)

※賃上げ率は、次の算式により計算します。

(平均給与等支給額-比較平均給与等支給額)÷比較平均給与等支給額

※この改正は、平成29年4月1日から平成30年3月31日の間に開始する事業年度に適用されます。

 


具体的な例をとって計算していきたいと思います。

①基準事業年度:基準雇用者給与等支給額が1,000

②前事業年度:比較雇用者給与等支給額が1,200

③適用年度:雇用者給与等支給額が1,500

だとすると・・・

(1,500-1,000)×10%+(1,500-1,200)×12%=86

の税額控除ができます。

改正前だと、(1,500-1,000)×10%=50の税額控除にとどまっていました。

 

中小企業の12%上乗せは、事業主の社会保険料負担の増加に対する配慮とも言われています。申告に際しては、税額控除を受けることができるかどうか、今一度ご確認ください。

 


《用語の説明》

(1)雇用者給与等支給額

国内雇用者(法人の使用人のうち国内事業所に勤務する雇用者(雇用保険の一般被保険者でない者も含む。)をいい、法人の役員、役員の特殊関係者、使用人兼務役員を除く。)に対して支給する俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与の額で、当該適用事業年度において損金算入される金額をいいます。
また、給与等に充てるため他の者(当該法人との間に連結完全支配関係がある他の連結法人を含む)から支払を受ける金額(例えば出向負担金)がある場合には、その金額を控除する必要があります。

・給与等に含まれるものの例:賃金、勤勉手当、残業手当など給与所得とされるもの

・給与等に含まれないものの例:退職手当など給与所得とされないもの

※決算賞与については、損金算入される事業年度の雇用者給与等支給額に含まれます。

(2)基準雇用者給与等支給額

平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度の前事業年度の雇用者給与等支給額をいいます。すなわち、平成25年4月1日より前に事業を行っている法人の場合には、平成24年度(個人事業主の場合は、平成25年)の雇用者給与等支給額が基準雇用者給与等支給額となります。なお、基準事業年度の月数と当該適用事業年度の月数とが異なる場合、基準事業年度の雇用者給与等支給額に当該適用事業年度の月数を乗じてこれを基準事業年度の月数で除して計算した金額を基準雇用者給与等支給額とします。

例1:3月末締めの会社の場合
→平成24年4月から平成25年3月までが基準事業年度となります。

例2:12月末締めの会社の場合
→平成25年1月から平成25年12月までが基準事業年度となります。

(3)雇用者給与等支給増加額

適用年度の雇用者給与等支給額(1)から基準雇用者給与等支給額(2)を控除した金額をいう。

(4)平均給与等支給額

雇用者給与等支給額から日々雇い入れられる者に係る金額を控除した金額を、適用事業年度における給与等の月別支給対象者(当該適用事業年度に含まれる各月ごとの給与等の支給の対象となる国内雇用者のうち日々雇い入れられる者を除きます。)の数を合計した数で除して計算した金額をいいます。月別支給対象者について、その月に給与を支給されたすべての人数を合計するため、月途中での退職や採用があった場合にも人数に含めます。

(5)比較雇用者給与等支給額

適用事業年度の前事業年度の雇用者給与等支給額をいいます。なお、前事業年度の月数と当該適用事業年度の月数とが異なる場合、当該前適用事業年度の雇用者給与等支給額に当該適用事業年度の月数を乗じてこれを当該前事業年度の月数で除して計算した金額を比較雇用者給与等支給額とします。

例1:平成25年10月に、3月締めの会社を設立した場合で、平成26年度(12か月)の比較雇用者給与等支給額を計算する場合。
→ 比較雇用者給与等支給額=(平成25年10月~平成26年3月の雇用者給与等支給額)×12÷6

例2:平成25年10月に、3月締めの会社を設立した場合で、平成27年度(12か月)の比較雇用者給与等支給額計算する場合。
→ 比較雇用者給与等支給額=(平成26年4月~平成27年3月年度の雇用者給与等支給額)

 

就業規則による労働条件の不利益変更

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成して、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。常時10人以上とは、正社員のみならず常用のパートタイマーや契約社員などの非正規の社員も含まれます。あくまでも常用ということなので、例えば通常は8人で繁忙期に2,3人雇い入れるような場合は含まれません。

では、常時10人未満なら就業規則は作成義務もないし、作らなくてもいいのではないか?というご質問を受けることがありますが、どうなのでしょうか?

就業規則を作成しておくことでトラブルを未然に防ぐことができるので、きちんとした就業規則であれば作成するのが望ましいです。きちんとした就業規則というのは、ただ単にひな形を使いまわしたようなものではなく、自社に合わせた基準で作成したものということです。もちろん法律に則ったものでなければいけません。

 

さて、作成した就業規則を変更する場合で、労働条件を不利益に変更することは可能なのでしょうか?

例えば、始業・就業の時刻を伸ばして1日7時間から8時間労働へ変更する、年間休日を短縮する、休職期間を短縮するなどといった、労働者にとってはその変更は不利益な変更となってきます。

労働条件を変更するための方法としては、以下の3つの方法があると考えられます。

  1. 労働者と使用者の合意によって変更する方法
  2. 就業規則を改定することによって変更する方法
  3. 労働協約の改定によって変更する方法

今回は、2の就業規則の改定によって変更する場合について考えていきます。

まず、先に述べたような労働契約の内容である労働条件の変更については、労働契約法8条では、次のように定められています。

「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」

このように、労働契約の内容の変更が合意によりなされるものであることが明確に規定されています。

 

この労働契約法8条に加えて、労働契約法9条では、次のように定めています。

「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。」

法9条において、法8条の合意の原則を就業規則の変更による労働条件の変更の場面にあてはめて、使用者が就業規則の変更によって一方的に労働契約の内容である労働条件を労働者の不利益に変更することができないことを確認的に規定したものになります。

 

ただし、上記労働契約法9条但し書きで、「次条の場合は、この限りでない。」とあるように次条である労働契約法10条では以下のとおりに定められています。

「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」

つまり、労働契約法10条では、①変更後の就業規則を周知させ、②その就業規則の変更が合理的なものであれば、合意の原則の例外として、「労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによる」という法的効果が生じることを規定したものとなっています。

 

そして、合理性の判断要素として、下記の例示をしています。

  • 就業規則の変更によって労働者の受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働組合等との交渉の状況等
  • その他の就業規則の変更に係る事情

 

上記の判断要素を総合的に考慮して判断し、それが合理的であれば、労働者の合意はなくても就業規則によって変更ができるということになります。

 

これについて詳細にみていくと、不利益変更をした就業規則の拘束力を争った第四銀行事件(最判平成9年2月28日)では、不利益変更による合理性の判断基準として下記のものをあげています。

  • 就業規則の変更によって社員が被る不利益の程度
  • 変更の必要性の内容・程度
  • 変更後の就業規則の内容自体の相当性
  • 代替措置その他関連する他の労働条件の改善状況
  • 労働組合等との交渉の経緯
  • 他の労働組合又は他の社員の対応
  • 同種事項に関する我が国社会における一般的状況等

 

合理的であるかどうかは、①就業規則の業務上の変更の必要性②労働者の受ける不利益の程度を比較衡量して、その変更内容に社会的な相当性があるかどうかも考えていくことがポイントとなります。

まず、判例では、業務上の変更の必要性について、3つに分けて検討しています。

  1. 通常の業務上の必要性
  2. 高度の業務上の必要性
  3. 極度の業務上の必要性

1についてみていくと、例えば福利厚生の不利益変更について、不合理な内容を是正する場合は(通常の)業務上の必要性があると考えられます。社内の全体的な労働条件の見直しの中でバランスが取れているものであればよいという考え方です。

次に2についてみてみると、例えば合併によって賃金カット等の統一の労働条件を設定する場合は、合併による労働条件の統一の要請が強く作用すると考えられるので、業務上の必要性があると考えられます。

最後に3については、例えば経営危機による人件費削減の必要性など、賃金削減などの不利益変更もやむを得ないものと考えられるため、業務上の必要性があると判断されると考えられます。

 

また、労働者が受ける不利益の程度については、変更後の労働条件の内容と変更の程度の両面から考える必要があります。そして、変更の程度は事案によって異なりますが、変更される労働条件の内容により合理的かどうかの判断も異なってくると考えられます。

例えば、労働条件の内容として、賃金や退職金についての不利益な変更は、労働者にとって大きな不利益変更と考えられますが、逆に福利厚生についての不利益変更は、労働者にとっては小さな不利益変更になると考えられます。それを踏まえた上で、賃金や退職金に関する労働条件の不利益変更は、高度の業務上の必要性があると言えるのかどうかについての検討が必要となり、いくら引き下げるのかについても重要になってきます。

そして、変更後の就業規則の内容に相当性があるかどうか判断していきます。例えば、特定の層にだけ不利益が偏在する場合には、その不利益を緩和するために代替措置を取るなどの他の層とのバランスを取ることが重要となります。


まとめ

就業規則を不利益な内容に変更する場合には、できる限り、経営上のいたしかたない事情であったり、雇用を維持していくためのやむを得ない措置であることを詳細に説明して、従業員に納得してもらう努力をすることがトラブルを防ぐことにつながるので、説明会を開くことはとても重要なことです。説明会では、変更の必要性はもちろんのこと、会社の状況や同業他社の状況も交えて説明をし、同意を得られない場合は複数回開くことも考えるようにしてください。会社側での丁寧な対応を心掛ける必要があります。

労働条件の変更は、合意による変更が原則となっています。また、合意による変更であれば、就業規則の変更が合理的であるかを判断することは必要ないので、できる限り労働者との合意により労働条件を変更するようにしましょう。

実務的には、代替措置を提示することも効果的となります。

例えば、退職金を引き下げるのであれば、定年を引き上げるなど、社員にとって不利な変更もあるけれど、有利な変更も加えて同意をしてもらうようなことも考えられます。

しかしながら、労働条件の変更に同意しない従業員がいる場合、就業規則の変更に合理性があれば変更も可能となりますので、合理性を満たす内容の変更としていことが必要となってきます。

 

労働条件の不利益変更は、トラブルになりやすいので慎重に行うことが重要となってきます。

 

 

「みなし役員」に注意

中小企業では、社長の奥様に給料を支払っている場合が多くありますが、この奥様に支払われた給料はどのような取扱いになるのでしょうか?

奥様が役員になっている場合は、役員給与とされるため法人税法上の規制を受けることになります。定期同額でなければいけないとか、過大な役員給与は否認されることもあります。

では、奥様が役員でなかった場合はどうでしょうか?

役員じゃないから、従業員と同様の扱いになるでしょうか?

会社法上の役員は、取締役、監査役、執行役、理事、監事などで登記されている人になりますが、法人税法上の役員は、その範囲が広くなっており、役員とみなされる場合があるので注意が必要です。これを「みなし役員」と言います。

「みなし役員」とされるのは、次のような場合になります。

1.法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限る)以外の者でその法人の経営に従事しているもの

例えば、相談役や顧問のような方で、その法人における地位や職務等からみて他の役員と同様に実質的に経営に従事している方が該当します。

また、「職制上使用人としての地位」とは、部長、課長、支店長、工場長、営業所長、主任等の法人の機構上定められている使用人たる地位をいい、このような地位にある方は除かれているので、例えば工場長の地位のみ有していて、実質的に経営には従事していない方はみなし役員には該当しないことになります。

つまり、会社法上は会社の役員になっていなくても、実質的には役員と変わらない方が該当してきます。

2.同族会社の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限る)のうち、次に掲げるすべての要件を満たす者で、その法人の経営に従事しているもの

 (1)その法人の株主グループ(その会社の一の株主等及びその株主等と親族関係など特殊な関係のある個人や法人をいいます)をその所有割合の大きいものから順に並べた場合、その使用人が次のいずれかの株主グループに属していること。

  • 所有割合50%超の第一順位の株主グループ
  • 第一順位と第二順位の所有割合を合計したときに50%超となる場合のこれらの株主グループ
  • 第一順位から第三順位までの所有割合を合計したときに50%超となる場合のこれらの株主グループ

(2)その使用人の属する株主グループの所有割合が10%を超えていること。

(3)その使用人とその配偶者(これらの者の所有割合が50%超である他の会社を含む)の所有割合が5%を超えていること。

※株式の所有割合を満たしていても、会社の経営に従事していなければ「みなし役員」にはなりません。

 

では、上記1,2いずれにも共通している「その法人の経営に従事している」という要件は、どのような場合を指すのでしょうか?

判例や裁決事例をみてみると、会社内で重要な地位に就いていたとしても、事業内容の決定、主要な取引先の選定、重要な契約に関する決定、売上価額の決定、資金繰り計画、従業員の採用・給与・退職の決定など、会社における重要な職務に従事している等、実質的に他の役員と同様に会社の経営に従事している場合が該当すると考えられます。

具体的な裁決事例は、下記のようなものがあります。

 

・経営に従事していると判断された事例

《商業登記簿上の役員でなくても実質的に会社の経営に従事している者に支給した賞与の額は役員賞与に該当するとした事例》(裁決事例集No.20-181頁)

商業登記簿上の役員でない者であっても、自己の名義によって金融機関から事業用資金を借り入れることを決定するなど請求人の資金計画を行い、また、商品の仕入れ及び販売の計画並びに従業員の採用の諾否及び給与の決定を行うなど専ら自己の責任において請求人の業務を運営していることが認められるので、当該者は法人税法施行令第7条第1項第1号に規定する使用人以外の者で請求人の経営に従事している者に該当し、同法第2条第15号に規定する役員に当たるから、同人に支給された賞与の額を役員賞与として損金の額に算入しなかった原処分は適法である。(昭和55年2月20日裁決)

 

・経営に従事しているとされなかった事例

《同族関係者で一定割合の株式を所有する使用人に支給した賞与は役員賞与に該当しないとした事例》(裁決事例集No.16-36頁)

同族会社の同族関係者である使用人が同社の株式を一定割合以上保有しているが、その使用人は、同社の電気工事部門の責任者として請求人の他の使用人と専ら電気工事の現場作業に従事しているだけで、請求人の電気工事の大口工事の受注契約並びに材料の購入、資金計画、従業員の給与及び賞与の額等、請求人の経営に係る重要事項の決定の業務は代表取締役が専ら行っており、その使用人は当該業務に従事せず、請求人の経営に従事しているとは認められないから、その使用人に対する賞与は法人税法第35条第1項に規定する役員賞与に該当しないので、その賞与の額は損金の額に算入するのが相当である。(昭和53年7月17日裁決)

 

「みなし役員」に該当する場合には、役員とみなされる以上、法人税法の規定の適用を受けることになるので、定期同額給与や事前確定届出給与に該当する場合を除き、支払った給与は損金に算入されないということになってきます。定期同額給与の改定時期・事前確定届出給与の届出書の提出期限については、役員の方と同様の取扱いになります。また、「みなし役員」の職務の内容や会社の収益の状況、その会社と同種の事業・類似の事業規模の役員に対して支払われる給与の状況などを勘案して、相当な金額である必要があります。

 

同族会社の社長の親族である場合は特に、「みなし役員なのではないか?」とみられてしまう可能性が高いので、職務の権限や内容などを明確にして、経営に従事していないことをきちんと立証できるようにしておくことが大事になってきます。

 

 

負担付贈与の課税関係

「負担付贈与」とは、受贈者(財産をもらう人)に借入金などの一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与のことをいいます。例えば、親が所有している賃貸アパートを子どもに贈与するときに、そのアパートの借入金も負担させるような場合が該当します。

負担付贈与を受けたときは、贈与財産の価額から借入金などの負担の額を差し引いた金額に対して贈与税が計算されます。

          〔 贈与財産の価額-借入金などの負担の額-110万円(基礎控除)〕×贈与税の税率=贈与税


♦贈与財産の価額の評価♦

では、負担付贈与の場合、贈与財産の価額の評価はどうなるのでしょうか?

 

通常の贈与の場合は、贈与財産の価額の評価は「相続税評価額」とされ、通常はいわゆる時価よりも低い価額での評価になります。

 

しかし、土地や建物などの不動産・上場株式について負担付贈与がされた場合の贈与財産の価額の評価は、「時価」によることとされています。「時価」は、売買されるときの通常の取引価額です。

不動産・上場株式以外の財産を負担付で贈与した場合については、通常の贈与の場合と同様に「相続税評価額」での評価となります。

 

《通常の贈与の評価額》

  • 相続税評価額

 

《負担付贈与の財産別の評価額》

  • 不動産・上場株式以外の評価額 → 相続税評価額
  • 不動産・上場株式の評価額   → 時価(通常の取引価額)

 

例えば・・・

父親が時価2,000万円、相続税評価額1,600万円の土地を子どもに贈与した場合について考えてみます。

  • 通常の贈与の場合の評価額・・・相続税評価額1,600万円
  • 借入金1,000万円を負担させた場合の評価額・・・時価2,000万円-借入金1,000万円=1,000万円

 →これが、土地などの不動産や上場株式でなかった場合は、相続税評価額1,600万円-1,000万円=600万円が評価額となります。

負担付贈与に該当しても、財産の種類によって評価の金額は変わってくるので注意が必要です。


♦贈与した側(贈与者)にかかる税金♦

では、贈与した側(贈与者)には税金はかからないのでしょうか?

例えば、時価2,000万円の土地を贈与し、借入金1,000万円を負担させた場合、贈与した側(贈与者)は、借入金1,000万円の利益を受けたとされ、所得税(譲渡所得税)の課税関係が生じてきます。もともとこの土地を800万円で購入していたとすると、1,000万円-800万円=200万円に対して譲渡所得税がかかってくることになります。

 

負担付贈与をする場合は、贈与された側だけでなく、贈与した側にも税金が発生する場合があるということに留意する必要があります。

 

 

「事前確定届出給与」の活用と注意点

役員への給与は原則として毎月同じ金額を支給する「定期同額給与」でなければ損金にならないので、役員に賞与を支給しても、税務上は損金になりません。役員に賞与を支払った場合は、その分は経費にならないイメージです。

しかし、あらかじめ役員賞与の支給時期と支給額を確定し、かつ、事前に所定の届出書(「事前確定届出給与に関する届出書」)を決められた期限までに税務署に提出することにより、役員へ支払った賞与も損金に算入することができます。

「事前確定届出給与に関する届出書」は毎期届出が必要であるため、提出を忘れてしまった場合はその決算期は役員賞与を支給しても損金には算入できなくなるため注意が必要です。

そして、「事前確定届出給与」は、①届出の提出期限を守ること②届出書の記載どおりに給与を支払うことが重要になっています。

 

「事前確定届出給与に関する届出書」の提出期限は、下記のとおりとなります。

(1)株主総会、社員総会等の決議により所定の時期に確定額を支給することを定めた場合

次のイまたはロのうちいずれか早い日

  • イ.支給の決議をした株主総会、社員総会等の日(その決議をした日が職務の執行を開始する日後である場合にはその開始する日)から1か月を経過する日
  • ロ.その会計期間開始の日から4か月を経過する日

 

(2)新たに設立した法人が決議により所定の時期に確定額を支給することを定めた場合

  • その設立の日以後2か月を経過する日

 

(3)臨時改定事由により新たに「事前確定届出給与」の定めをした場合

次のイまたはロのうちいずれか遅い日

  • イ.(1)の届出期限
  • ロ.臨時改定届出事由が生じた日から1か月を経過する日

 

例えば、(1)の事例で考えてみると、3月決算法人が6月20日に株主総会を開催した場合、イは7月20日、ロは7月31日となるので、いずれか早い日は7月20日となり、7月20日が届出書の提出期限となります。

 

また、届出書の記載事項は、下記のとおりとなります。

  1. 事前確定届出給与に係る株主総会等の決議をした日とその決議をした機関等
  2. 事前確定届出給与に係る職務の執行を開始する日(定時株主総会の日など)
  3. 臨時改定事由の概要とその臨時改定事由が生じた日
  4. 事前確定届出給与等の状況→詳しくは届出書とは別に「付表(事前確定届出給与等の状況)」に記載して添付しなければいけません。
  5. 事前確定届出給与につき定期同額給与による支給としない理由と事前確定届出給与の支給時期を付表の支給時期とした理由

 

次に、具体的にどのような場合に損金算入が認められないのかみていきます。

・1回でも支給額が届出と異なる場合、支給額のすべてが損金不算入となってしまいます。

・支給の時期が届出書と異なっている場合は、例えば2回事前確定届出給与を支給すると届出ていて、1回目は届出どおりに支給しても2回目が届出の時期とずれていた場合、2回とも損金に算入できなくなってしまいます。

・届出書に記載した以外の支給があった場合、例えば業績が当初の予定よりも好調で賞与を届出書記載以外にも支給した場合、事前確定届出給与は届出書のとおりに支給していれば、届出書記載以外に支給した分について損金不算入になりますが、事前確定届出給与については損金算入されます。

 


 

では、「事前確定届出給与に関する届出書」を提出していたけれど支給を全くしなかった場合、損金不算入額といっても支給をしていないため、零になって問題がないようにも思えますが、事前確定届出給与は支払の確定した日(株主総会等において事前に定められた支給日)から1年を経過した日までに支払いがされない場合には、その1年を経過した日に支払いがあったものとみなして源泉徴収することになっているので、実務上は注意が必要となってきます。

支給をしない場合には、支給日以前に事前確定届出給与の受取りを辞退したことを書面等で明確にしておき、源泉徴収をしなくてもいいようにしておくとよいでしょう。

 


 

また、事前確定届出給与は、臨時改定事由(役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更その他これらに類するやむをえない事情)もしくは業績悪化事由(経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由)に該当する場合には、「事前確定届出給与に関する変更届出書」を所定の期限内に提出するすれば、変更後の金額での損金算入が認められています。提出期限は下記のとおりです。

  • 臨時改定事由が生じた場合・・・臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日まで
  • 業績悪化事由が生じた場合・・・業績悪化による当初届出の変更に係る株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日まで。ただし、給与の支給の日(当該決議をした日後最初に到来するものに限ります。)が、株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日の前にある場合には、その支給の日の前日まで。

 

事前確定届出給与は、せっかく届出書を提出しても届出書どおりに支給していないと損金不算入といったことになってしまうので、きちんと届出書どおりの支給時期、支給金額を支払うように注意してください。臨時改定事由や業績悪化事由に該当する場合には、変更届出書の提出を提出期限までに提出するようにしましょう。また、支給時期や支給金額に変更がなくても毎期届出書は提出する必要があるので、そちらも忘れないようにしてください。

 

 

 

積立NISAの創設

NISA(ニーサ)は、平成26年1月から開始されており、「少額投資非課税制度」とも呼ばれています。NISAは、株式や投資信託などの譲渡益や配当金を非課税にする制度をいい、経済成長と将来の資産形成を支援することを目的としています。

現行のNISAは、投資した年から120万円分(平成27年分以前は100万円分)が最長5年間非課税となります。口座開設が可能な期間は平成26年から平成35年となっています。

この現行のNISAが積立て型の投資に利用しにくいこと、家計の安定的な資産形成を支援する観点から、平成29年度税制改正で、少額からの積立・分散投資を促進するための積立NISAが創設されました。この積立NISAは平成30年1月からスタートします。

積立NISAは、年間の投資額は最大40万円(現行のNISAは最大120万円)を投資した年から20年(現行のNISAは5年)という長期にわたって非課税で運用できる制度になっています。口座開設可能期間は、平成30年から平成49年までです。

非課税枠を最大限活用した場合、40万円×20年間=800万円となるので、現行のNISAよりも非課税での投資総額(最大600万円)は大きくなります。

ただし、積立NISAの場合は、長期の積立・分散投資に適した一定の投資商品で、金融庁が定める要件を満たしたものに限られています。現行のNISAは「株式」「投資信託」を購入できますが、積立NISAの場合は長期的な資産形成を目的としているため「投資信託」に限られています。例えば、バランス型ファンド非毎月分配型ファンドがあります。

また、積立NISAは現行のNISAとの併用はできません。どちらかを選択することになります。

投資信託で長期的に資産形成をしたいという方は、積立NISAが向いていると思いますが、株式投資もしたいという方は現行のNISAを活用する方が使い勝手が良いかもしれません。

現行のNISAは、平成29年3月末までで累計投資額が10兆円に達したとう新聞記事がありました。年明けからの株高が続いたことも追い風となっているようですが、家計の金融資産1800兆円のうちわずか0.5%にとどまっており、金融資産のうち937兆円は預貯金に眠ったままのようです。

現行の成人版のNISAに加え、0歳から19歳までの未成年者を対象として平成28年4月から始まった「ジュニアNISA」というものもあります。これは、高齢者の資産を若年層へシフトしていくのが狙いとなっています。未成年者の名義で口座を開き、原則として親権者が代理で運用管理をしていきます。年間80万円分が非課税投資枠となっており、成人版のNISAと同様に最長5年間が非課税期間となっています。ジュニアNISAの場合は、18歳までは払い出しに制限があります。

ジュニアNISAは、平成29年3月末時点の主要証券会社10社合計の口座数が9万1328口座で、現行の成人版NISAの2%にとどまっているようです。ジュニアNISAは、制度ができてからまだ1年ほどですが、現行の成人版NISAにしてもジュニアNISAにしても、まだまだ金融資産は中高年から現役世代へ浸透しておらず、貯蓄から投資への動きがいま一つの印象を受けます。

平成29年度税制改正で創設された積立NISAも含めて、手続きの簡素化や使い勝手の良さが求められるところです。

定年後、継続雇用する際の賃金決定・改定の注意点

平成25年4月1日に改正高年齢者雇用安定法(以下、「改正高齢法」)が施行されました。改正高齢法は、従業員を65歳まで雇用する措置を企業に求めています。

高年齢者雇用安定法は、定年の定めをする場合、60歳を下回る定めをしてはならない(坑内作業の業務を除く)としています。これは定年の定めをすること自体を義務付けるものではなく、次のいずれかの措置を講ずることを企業に求めています。

  1. 定年を65歳以上まで引き上げる

  2. 継続雇用制度を導入する

  3. 定年制そのものを廃止する

 

現在、企業の多くは上記2の60歳定年に達した人を継続して雇用する「継続雇用制度」を導入しています。

改正高齢法では、この「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みが廃止され、労使協定の基準に該当しない人も、老齢厚生年金の受給開始年齢に達するまでは、原則として希望者全員を再雇用しなければいけなくなりました。

引き上げのスケジュールは、以下のようになっています。

  • 平成25年4月1日~平成28年3月31日まで・・・61歳
  • 平成28年4月1日~平成31年3月31日まで・・・62歳
  • 平成31年4月1日~平成34年3月31日まで・・・63歳
  • 平成34年4月1日~平成37年4月1日まで・・・64歳
  • 平成37年4月1日以降・・・65歳

ここで定年後に再雇用をした場合に給料を減額するのは「不利益変更」にあたらないのか?という疑問が生じるかもしれません。

これは「不利益変更」の問題は生じないと解されています。再雇用の場合は、60歳までの労働契約は一旦終了するため、そもそも「不利益変更」にあたるかどうかを比べる対象がないという考え方になります。

ただし、就業規則で再雇用後の給料などの労働条件を定め、そのことを周知させている場合は、再雇用後の労働条件を就業規則に定められている労働条件に満たないものとすることはできません。


定年後に継続して雇用する場合、従業員の体力や会社の状況も考えて労働条件を見直すことになります。具体的には次のような労働条件について考えていく必要があります。

  • 労働時間および労働日数はどうするのか?フルタイムなのか、短時間勤務とするのか?社会保険の加入も含めて検討する必要があります。

  • 給料は月給制なのか、時間給なのか。

  • 賞与や退職金の有無

  • 継続雇用した従業員のポジションは今までと同じなのか、それとも業務の負担を減らし責任の程度も変更するのか。

再雇用後の労働条件については、早めに従業員と話し合う機会を設けるようにしましょう。その際、健康状態も確認しながら、労働条件を決めていくようにしましょう。また、再雇用者の生活設計も含めて検討するのが望ましいです。再雇用後の給料を大幅に下げる場合は、勤務日数、労働時間を減らしたり、責任の程度、業務の内容も見直すことが必要です。業務内容や責任の程度が今までと変わらないのに給料が下がったのでは、再雇用者の不満が大きくなります。給料と業務内容(業務の負担)はバランスが取れるように考えるようにしましょう。

また、再雇用者の労働条件は、再雇用者の能力に応じて再雇用者ごとに決めるのが望ましいです。再雇用者全員一律とすると、逆に不満が生じる可能性があります。

少子高齢化によって労働力人口が減少し、人手不足が問題となっています。再雇用後の労働条件について話し合った結果、従業員が再雇用を希望するかどうかを早めに確認することは、人材の確保や資金繰りなど会社を経営する上でとても重要となります。

 

「法定相続情報証明制度」が始まります

不動産の登記名義人(所有者)が死亡した場合、所有権移転の登記をしなければなりません。これを相続登記といいますが、この相続登記がなされないまま放置されている不動産が増加し、土地の所有者が不明だったり、空き家問題の一因となっているといった指摘がされています。

このような問題に対処するため法務省は、平成29年5月29日(月)から「法定相続情報証明制度」の運用を開始します。

この制度を利用して交付された「法定相続情報一覧図の写し」は、相続登記の申請手続をはじめ、被相続人名義の預金の払戻し等、様々な相続手続に利用することができます。この「法定相続情報一覧図の写し」は無料で必要な通数が交付されるので、預金口座が複数ある方には特にメリットが大きいです。また、手続きを同時に進められるので時間的にも短縮することができます。この制度によって、相続手続に係る相続人・手続の担当部署双方の負担の軽減を図ることを一つの目的としています。

≪手続きの流れ≫

1.申出(法定相続人または代理人)

①市区町村の窓口で戸除籍謄本等を収集

②法定相続人情報一覧図を作成

③所定の申出書を記載し、①②の書類を添付して登記所に申し出る

2.確認・交付(登記所)

①登記官による確認、法定相続人情報一覧図を保管

②認証文付き法定相続人情報一覧図の写しの交付、戸除籍謄本等の返却

3.利用

各種相続手続きで利用。

 

不動産の相続登記をきちんとしておかないと、後々になってその不動産を売却することにした場合などに困ってしまうことがあるので、活用できる制度は大いに利用して、不動産の相続登記も忘れずに行うようにしてください。

従業員への決算賞与

決算賞与は、業績が好調な時に支払われることが多いため、節税対策として用いられることがあります。

この決算賞与は、未払いでも通常の賞与と同様で損金にすることができますが、その場合は以下の3つの要件を満たす必要があるので注意が必要です。

  1. 期末までに、同じ時期に支給するすべての従業員に対して、その支給額を従業員ごとに通知していること

  2. 通知した金額を期末から1か月以内に支払っていること

  3. 決算処理において決算賞与の金額を損金経理していること

上記の要件を満たすことによって、有効な決算対策をすることができます。

1についてはいくつか注意点があります。

決算賞与の通知を受けた従業員が、実際の決算賞与の支給日までに退職した場合には支給しないことを会社側が決めていたり、実際に支給をしなかった場合には、全員分の決算賞与を今期の経費として計上できなくなります。

また、決算賞与を支給日に在職している従業員にのみに支払うとしている場合、結果的に退職者がなく通知した従業員全員にきちんと決算賞与を支給した場合でも、未払いの決算賞与の金額は確定していないものとみなされて今期の経費に計上できないことになります。

給与規定を作っている会社の場合は、必ずご確認ください。

決算賞与は、上記の3つの要件を満たせば、期末までに支給していなくても未払い計上することによって経費計上ができます。従業員のモチベーション向上にもつながり、なおかつ節税対策にもなるわけですが、決算賞与を支払うということは、減った税金よりも多くのキャッシュが出ていくことになりますので、その点は念頭に置いておく必要があります。

実務上は、決算賞与の未払計上は税務調査でチェックされやすい項目になるので、通知書はきちんと書面で履歴を残し、従業員から日付・確認印をもらっておくとよいでしょう。決算賞与の支給に関しても証拠を残すという意味で、できるだけ銀行振込によることをおすすめします。また、給与規定も確認されることがあるので要件を満たしているかどうか見直す必要があります。