「事前確定届出給与」の活用と注意点

役員への給与は原則として毎月同じ金額を支給する「定期同額給与」でなければ損金にならないので、役員に賞与を支給しても、税務上は損金になりません。役員に賞与を支払った場合は、その分は経費にならないイメージです。

しかし、あらかじめ役員賞与の支給時期と支給額を確定し、かつ、事前に所定の届出書(「事前確定届出給与に関する届出書」)を決められた期限までに税務署に提出することにより、役員へ支払った賞与も損金に算入することができます。

「事前確定届出給与に関する届出書」は毎期届出が必要であるため、提出を忘れてしまった場合はその決算期は役員賞与を支給しても損金には算入できなくなるため注意が必要です。

そして、「事前確定届出給与」は、①届出の提出期限を守ること②届出書の記載どおりに給与を支払うことが重要になっています。

 

「事前確定届出給与に関する届出書」の提出期限は、下記のとおりとなります。

(1)株主総会、社員総会等の決議により所定の時期に確定額を支給することを定めた場合

次のイまたはロのうちいずれか早い日

  • イ.支給の決議をした株主総会、社員総会等の日(その決議をした日が職務の執行を開始する日後である場合にはその開始する日)から1か月を経過する日
  • ロ.その会計期間開始の日から4か月を経過する日

 

(2)新たに設立した法人が決議により所定の時期に確定額を支給することを定めた場合

  • その設立の日以後2か月を経過する日

 

(3)臨時改定事由により新たに「事前確定届出給与」の定めをした場合

次のイまたはロのうちいずれか遅い日

  • イ.(1)の届出期限
  • ロ.臨時改定届出事由が生じた日から1か月を経過する日

 

例えば、(1)の事例で考えてみると、3月決算法人が6月20日に株主総会を開催した場合、イは7月20日、ロは7月31日となるので、いずれか早い日は7月20日となり、7月20日が届出書の提出期限となります。

 

また、届出書の記載事項は、下記のとおりとなります。

  1. 事前確定届出給与に係る株主総会等の決議をした日とその決議をした機関等
  2. 事前確定届出給与に係る職務の執行を開始する日(定時株主総会の日など)
  3. 臨時改定事由の概要とその臨時改定事由が生じた日
  4. 事前確定届出給与等の状況→詳しくは届出書とは別に「付表(事前確定届出給与等の状況)」に記載して添付しなければいけません。
  5. 事前確定届出給与につき定期同額給与による支給としない理由と事前確定届出給与の支給時期を付表の支給時期とした理由

 

次に、具体的にどのような場合に損金算入が認められないのかみていきます。

・1回でも支給額が届出と異なる場合、支給額のすべてが損金不算入となってしまいます。

・支給の時期が届出書と異なっている場合は、例えば2回事前確定届出給与を支給すると届出ていて、1回目は届出どおりに支給しても2回目が届出の時期とずれていた場合、2回とも損金に算入できなくなってしまいます。

・届出書に記載した以外の支給があった場合、例えば業績が当初の予定よりも好調で賞与を届出書記載以外にも支給した場合、事前確定届出給与は届出書のとおりに支給していれば、届出書記載以外に支給した分について損金不算入になりますが、事前確定届出給与については損金算入されます。

 


 

では、「事前確定届出給与に関する届出書」を提出していたけれど支給を全くしなかった場合、損金不算入額といっても支給をしていないため、零になって問題がないようにも思えますが、事前確定届出給与は支払の確定した日(株主総会等において事前に定められた支給日)から1年を経過した日までに支払いがされない場合には、その1年を経過した日に支払いがあったものとみなして源泉徴収することになっているので、実務上は注意が必要となってきます。

支給をしない場合には、支給日以前に事前確定届出給与の受取りを辞退したことを書面等で明確にしておき、源泉徴収をしなくてもいいようにしておくとよいでしょう。

 


 

また、事前確定届出給与は、臨時改定事由(役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更その他これらに類するやむをえない事情)もしくは業績悪化事由(経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由)に該当する場合には、「事前確定届出給与に関する変更届出書」を所定の期限内に提出するすれば、変更後の金額での損金算入が認められています。提出期限は下記のとおりです。

  • 臨時改定事由が生じた場合・・・臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日まで
  • 業績悪化事由が生じた場合・・・業績悪化による当初届出の変更に係る株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日まで。ただし、給与の支給の日(当該決議をした日後最初に到来するものに限ります。)が、株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日の前にある場合には、その支給の日の前日まで。

 

事前確定届出給与は、せっかく届出書を提出しても届出書どおりに支給していないと損金不算入といったことになってしまうので、きちんと届出書どおりの支給時期、支給金額を支払うように注意してください。臨時改定事由や業績悪化事由に該当する場合には、変更届出書の提出を提出期限までに提出するようにしましょう。また、支給時期や支給金額に変更がなくても毎期届出書は提出する必要があるので、そちらも忘れないようにしてください。