税務労務お役立ちコラム

大阪の女性税理士・社会保険労務士 阿部ミチルのお役立ちコラム

代表税理士・社会保険労務士 阿部ミチル

大阪の女性税理士・社会保険労務士のお役立ちコラム

民法改正による債権消滅時効の見直し

2017年5月26日、民法の大改正が行われました。1896年の民法制定・公布以来、約120年ぶりの大改正となっています。インターネット取引の普及など時代の変化に対応し、さらに消費者保護も重視した改正内容となっています。

ここでは、この大改正となった民法の債権関係の改正について触れていきます。

消滅時効の統一

まず、「消滅時効」とは、債権などの財産権について、権利不行使という状態が一定期間継続した場合に、その権利を消滅させる制度のことをいいます。現行の民法では、一般的債権の消滅時効は原則10年と定められており、例外として業種ごとに異なる短期消滅時効を定めています。この例外を設けているのは、金額の低い債権や日常頻繁に生じる債権については短期間で証明が困難になりやすいことが理由とされています。現行の民法のおける債権の消滅時効は下記の表の通りです。

    業種別の主な債権の種類  時効期間
・運送賃に係る債権

・旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席 料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権

  1年
・弁護士、弁護士法人又は公証人の職務に関する債権

・生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権

・自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権

・学芸又は技能の教育を行うものが生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権

  2年
・医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権

・工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権

  3年
・年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権(会社間の商取引)   5年

 

上記のように、現行の民法では業種ごとに短期消滅時効が定められていますが、この業種ごとの短期消滅時効を廃止し、原則一本化され、次のいずれかに該当するときは債権は時効によって消滅することとなりました。

  1. 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しない時は時効消滅

  2. 債権者が知らなくても権利を行使することができる時から10年間行使しない時は時効消滅(現行法と同様)

 

事業のための貸金債務についての個人保証の制限

企業向けの融資について、個人保証についての意思確認を厳格にすることで、保証人保護を拡充することために、改正法案では、個人保証について一定の制限が規定されました。連帯保証の場合も同様となります。

具体的には、経営者以外の第三者である個人が、事業のための借入の保証人となる場合には、その保証契約締結の日前1か月以内に作成された公正証書で、保証する意思が確認されなければ、原則として無効となります。

ただし、保証人となる者が個人であっても、法人の取締役、執行役、団体理事又はこれらに準ずる者、過半数の議決権を持つ株主、個人事業の共同事業者など、主債務者と一定の関係にある者は、保証制限の対象の例外となっています。

 

法定利率の引き下げ

金銭債権に利息が付される場合、その利率は当事者間の合意によって定めた利率(約定利率)によることが一般的ですが、当事者間に定めがない場合、法律で定められた利率(法定利率)が適用されることになります。

低金利が長期間続いており、実勢金利に比べて現行法定利率である年5%(商事法定利率は年6%)は高すぎるとの指摘されていました。

そこで改正民法では、現行の法定利率5%を3%に引き下げ、その後3年ごとに見直す変動性が導入されることになりました。

 

※改正法の施行日は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。

留学生をアルバイトとして雇用した場合

飲食店などでは、留学生をアルバイトとして雇用することもあると思いますが、そのような留学生に支払う給料の源泉徴収はどうしたらよいでしょうか?

 

このような場合は、まず在留資格・在学証明により居住者なのか非居住者なのかを確認する必要があります。

 

  • 居住者の場合⇨「給与所得の源泉徴収税額表」に基づいて通常の場合と同様の源泉徴収

  • 非居住者の場合⇨一律20.42%の源泉徴収

 

また、留学生の母国との間で締結されている租税条約によって、源泉徴収が免除される場合もあるので、租税条約の締結の有無を確認する必要があります。

 

◆居住者と非居住者の判定の仕方

予定滞在期間が1年以上の場合

  • 実際の滞在期間1年以上・・・居住者
  • 実際の滞在期間1年未満・・・帰国時まで居住者

 

予定滞在期間が1年未満の場合

  • 実際の滞在期間1年未満・・・非居住者
  • 実際の滞在期間1年以上・・・1年以上滞在が明らかとなる時まで非居住者、以後は居住者

◆租税条約の有無の確認

日本との間で租税条約が締結されている国の留学生の場合は、租税条約が優先されます。

(1) 中国から来日した留学生
専ら教育を受けるために日本国内に滞在する学生で、現に中国の居住者である者又はその滞在の直前に中国の居住者であった者が、その生計、教育のために受け取る給付又は所得は、免税とされます(日中租税協定第21条)。
したがって、中国から来日した大学生の日本での生活費や学費に充てる程度のアルバイト代であれば、免税とされます。

この場合について、源泉徴収の段階で免税措置を受けるためには、「租税条約に関する届出書」を作成し、学校の発行する在学証明書等を添付して給与支払者を通じて、その給与支払者の所轄税務署長に提出する必要があります(租税条約等実施特例省令第8条)。なお、税務署への提出期限は、入国の日以後最初の給与を支払う前日までとなります。

(2) インドから来日した留学生
専ら教育を受けるために日本国内に滞在する学生で、現にインドの居住者である者又はその滞在の直前にインドの居住者であった者が、その生計、教育のために受け取る給付は、免税とされます。ただし、日本の国外から支払われるものに限られます(日印租税条約第20条)。
したがって、インドから来た大学生が受け取る日本でのアルバイトによる所得は、国外から支払われるものではありませんので、免税とされません。この場合、その給与等については、その大学生が居住者か非居住者かの判定を行った上、それぞれの区分に応じた源泉徴収を行うこととなります。

※ベトナムから来日した留学生もインドから来日した留学生と同様の租税条約が締結されています(日越租税協定第20条)。

※「専ら教育を受けるために日本国内に滞在する学生」とは、学校教育法第1条に規定する学校(高等学校・大学・大学院等)に通う学生でなければならないため、日本語学校・専門学校などに通う学生の場合は租税条約の適用を受けないので注意が必要です。

 

日本が締結した租税条約の学生条項は、免税とされる給付の範囲等が国によって様々なので、租税条約の適用に当たっては、各国との租税条約の内容を確認するようにしてください。

キャリアアップ助成金〜諸手当制度共通化コース〜

キャリアアップ助成金は、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者(正社員待遇を受けていない無期雇用労働者を含みます。以下「有期契約労働者等」といいます。)の企業内でのキャリアアップ等を促進する取組を実施した事業主に対して助成をするものであ り、有期契約労働者等の安定した雇用形態への転換等を目的としています。

このキャリアアップ助成金が、平成29年度から3コースだったものが8コースに細分化されました。新設のコースも増えて、使いやすい助成金もあります。

新設された助成金の中で、今回は「諸手当制度共通化コース」について触れていきます。

 

「諸手当制度共通化コース」は、有期契約労働者等の処遇改善を通じたキャリアアップを目的としており、労働協約又は就業規則の定めるところにより、その雇用する有期契約労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の諸手当に関する制度を新たに設けて、適用した場合に支給されます。

正規雇用労働者に係る諸手当制度を、新たに設ける有期契約労働者等の諸手当制度と同時またはそれ以前に導入している事業主が対象となります。この制度は6ヶ月以上運用していることが必要となります。

助成金の受給額

1事業所当たり・・・38万円(生産性の向上が認められる場合48万円)

大企業の場合・・・28万5千円(生産性の向上が認められる場合36万円)

※1事業所当たり1回のみ

対象となる労働者

次の①~④のすべての要件に当てはまる労働者が対象となります。

①労働協約又は就業規則の定めるところにより、諸手当制度を適用した日の前日から起算して3か月以上前の日から適用後6か月以上の期間継続して、支給対象事業主に雇用されている有期契約労働者等であること。

② 諸手当制度を適用した日以降の期間について、支給対象事業主の事業所において、雇用保険被保険者であること。

③ 諸手当制度を新たに作成し適用を行った事業所の事業主又は取締役の3親等以内の親族以外の者であること。

※3親等以内の親族とは、配偶者、3親等以内の血族および姻族をいいます。

④支給申請日において離職していない者であること。

※本人の都合による離職及び天災その他やむを得ない理由のために事業の継続が困難となったこと又は本人の責めに帰すべき理由による解雇を除きます。

 

対象となる事業主

次の1から9までのすべてに該当する事業主が対象となります。

1.キャリアアップ計画書に記載されたキャリアアップ期間中に、労働協約又は就業規則の定めるところによ り、その雇用する有期契約労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の次の(1)から(11)のいずれか の諸手当制度を新たに設けた事業主であること。

(1) 賞与

一般的に労働者の勤務成績に応じて定期又は臨時に支給される手当(いわゆるボーナス)

(2) 役職手当

管理職等、管理・監督ないしこれに準ずる職制上の責任のある労働者に対し、役割や責任の重さ等に応じて支給される手当

(3) 特殊作業手当・特殊勤務手当

著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他の著しく特殊な勤務に従事する労働者に対し、その勤務の特殊性に応じ て支給される手当(人事院規則9-30(特殊勤務手当)に規定する特殊勤務手当に相当するもの等)

(4) 精皆勤手当

労働者の出勤奨励を目的として、事業主が決めた出勤成績を満たしている場合に支給される手当

(5) 食事手当

勤務時間内における食費支出を補助することを目的として支給される手当

(6) 単身赴任手当

勤務する事業所の異動、住居の移転、父母の疾病その他やむを得ない事情により、同居していた扶養親族と別居すること となった労働者に対し、異動前の住居又は事業所と異動後の住居又は事業所との間の距離等に応じて支給される手当

(7) 地域手当

複数の地域に事業所を有する場合に、特定地域に所在する事業所に勤務する労働者に対し、勤務地の物価や生活様式 の地域差等に応じて支給される手当

(8) 家族手当

扶養親族のある労働者に対して、扶養親族の続柄や人数等に応じて支給される手当(扶養している子どもの数や教育に要 する費用に応じて支給される子女教育手当を含む。)

(9) 住宅手当

自ら居住するための住宅(貸間を含む。)又は単身赴任する者で扶養親族が居住するための住宅を借り受け又は所有して いる労働者に対し、支払っている家賃等に応じて支給される手当

(10) 時間外労働手当

労働者に対して、労働基準法(昭和22年法律第49号)第37条第1項に基づき法定労働時間を超えた労働時間に対する 割増賃金として支給される手当

(11) 深夜・休日労働手当

労働者に対して、労働基準法第37条第1項に基づき休日の労働に対する割増賃金として支給される手当又は同条第4項 に基づき午後10時から午前5時までの労働に対する割増賃金として支給される手当

※1 諸手当の名称が一致していない場合でも、手当の趣旨・目的から判断して実質的に(1)から(11)までに該当していれば要件を満たします。

※2 現金支給された場合に限ります。(クーポン等により支給された場合は対象外)

2 .1の諸手当制度に基づき、対象労働者1人当たり次の(1)から(3)までのいずれかに該当し、6か月分の 賃金を支給した事業主であること。

(1) 賞与については、6か月分相当として50,000円以上支給した事業主
(2) 役職手当、特殊作業手当・特殊勤務手当、精皆勤手当、食事手当、単身赴任手当、地域手当、家族手当、住宅手当については、1か月分相当として3,000円以上支給した事業主
(3)時間外労働手当、深夜・休日労働手当については、割増率を法定割合の下限に5%以上加算して支給した事業主

3 .正規雇用労働者に係る諸手当制度を、新たに設ける有期契約労働者等の諸手当制度と同時又はそれ 以前に導入している事業主であること。

4 .有期契約労働者等の諸手当の支給について、正規雇用労働者と同額又は同一の算定方法としている 事業主であること。

5. 当該諸手当制度を全ての有期契約労働者等と正規雇用労働者に適用させた事業主であること。

6 .当該諸手当制度を6か月以上運用している事業主であること。

7. 当該諸手当制度の適用を受ける全ての有期契約労働者等と正規雇用労働者について、適用前と比べ て基本給等を減額していない事業主であること。

8 .支給申請日において当該諸手当制度を継続して運用している事業主であること。

9 .生産性要件を満たした場合の支給額の適用を受ける場合にあっては、当該生産性要件を満たした事業主であること。

※「諸手当制度共通化コース」は、申請時点で非正規労働者が退職し、正規雇用労働者のみとなった場合には受給できません。

 

支給申請期間

対象労働者に、諸手当の支給後6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2カ月以内に申請してください。

就業規則等の規定により、時間外手当を実績に応じ基本給等とは別に翌月等に支給している場合、6か月分の時間外手当が支給される日を賃金を支給した日とします。また、時間外勤務の実績がなく、結果として支給がない場合を含みます。

 

手続きの流れ

1.キャリアアップ計画の作成し、諸手当制度を共通化する日までに提出

雇用保険適用事業所ごとに、「キャリアアップ管理者」を配置するとともに、労働組合等の意見を聞いて「キャリアアップ計画」を作成し、管轄労働局の確認を受けます。

2.諸手当制度の共通化の実施

・ 共通化後の雇用契約書や労働条件通知書を対象労働者に交付する必要があります。

・ 当該諸手当制度の適用を受けるすべての有期契約労働者等と正規雇用労働者の基本給等を適用前と比 べて減額していない必要があります。

3.諸手当制度共通化後の賃金に基づき6か月分の賃金を支給・支給申請

諸手当の支給後6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に支給申請します。

※賃金には時間外手当等も含みます。

※就業規則等の規定により、時間外手当を実績に応じ基本給等とは別に翌月等に支給している場合、6か月分の時間外手当が支給される日を賃金を支給した日とします(時間外勤務の実績がなく、結果として支給がない場合を含みます。)。

4.支給決定

 

キャリアアップ助成金の中でも、比較的使いやすいと思われる「諸手当制度共通化コース」についてご紹介しました。非正規労働者のモチベーションアップ、ひいては生産性向上につなげていけると思うので、興味のある方は検討してみてください。