求人票の労働条件を変更する場合の注意点〔改正職安法平成30年1月1日施行〕

ハローワーク等への求人申し込みをする際や、ホームページ等で労働者の募集を行う場合は、労働契約締結までの間に労働条件を明示することが必要です。

この求人票等の内容は、あくまでも見込みとして幅のある記載をすることが多いため、求人票等に明示した労働条件と入社時の労働条件とが異なる場合がありえます。

求職者の経験、年齢、能力、希望の状況、面接や試験の結果などを踏まえて労働条件を個別に決めていくことがほとんどなので、求人票等に明示した労働条件と実際の入社時の労働条件が異なっていても当然に違法となるわけではありません。

ただし、労働条件が異なることによるトラブルが多いのは事実としてあります。

このような中、職業安定法改正により、当初明示した労働条件が変更される場合は、変更内容について明示することが義務付けられることになりました。改正職安法は平成30年1月1日より施行されます。

 

労働条件の明示が必要なタイミング

 

〈ハローワーク等への求人申込み、自社HPでの募集、求人広告の掲載等を行う際〉

▶求人票や募集要項等において、労働条件を明示することが必要です。

※求人票のスペースが足りない等、やむを得ない場合には、「詳細は面談の時にお伝えします」などと書いた上で、労働条件の一部を別途明示することも可能です。

※この場合原則として、初回の面接等、求人者と求職者が最初に接触する時点までに、すべての労働条件を明示すべきとされています。

 

〈労働条件に変更があった場合、その確定後、可能な限り速やかに〉

▶当初明示した労働条件が変更される場合は、変更内容について明示しなければなりません。(職業安定法改正により新設)

※面接等の過程で労働条件に変更があった場合、速やかに求職者に知らせるよう配慮が必要です。

 

〈労働契約締結時〉

▶労働基準法に基づき、労働条件通知書等により労働条件を通知することが必要です。

 

最低限明示し負ければならない労働条件等

労働者の募集や求人申込みの際に、少なくとも以下の事項を書面の交付によって明示しなければなりません。ただし、求職者が希望する場合には、電子メールによることも可能です。

記載が必要な項目 記載例
業務内容 一般事務
契約期間 期間の定めなし
試用期間 試用期間あり(3か月)
就業場所 本社(〇県〇市〇ー〇)
就業時間

休憩時間

休日

時間外労働

 

 

9:00~18:00

12:00~13:00

土日、祝日

あり(月平均20時間)

★裁量労働制を採用している場合は、以下のような記載が必要です。

例)「企画業務型裁量労働制により、〇時間働いたものとみなされます。」

賃金

 

 

 

 

 

月給20万円(ただし、試用期間中は月給19万円)

★時間外労働の有無に関わらず一定の手当を支給する制度(いわゆる「固定残業代」)を採用する場合は、以下のような記載が必要です。

①基本給 ××円(②の手当を除く額)

②□□手当(時間外労働の有無に関わらず、〇時間分の時間外手当として△△円を支給)

③〇時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給

加入保険 雇用保険、労災保険、厚生年金、健康保険
募集者の氏名又は名称 〇〇株式会社
(〇派遣労働者として雇用する場合) 雇用形態:派遣労働者

今回の改正により追加等された事項

 

労働条件明示に当たって遵守すべき事項

労働条件を明示するにあたっては、職業安定法に基づく指針等を遵守することが必要です。

〈職業安定法に基づく指針等の主な内容〉
○ 明示する労働条件は、虚偽又は誇大な内容としてはなりません。
○ 有期労働契約が試用期間としての性質を持つ場合、試用期間となる有期労働契約期間中の労働条件を明示しなければなりません。また、試用期間と本採用が一つの労働契約であっても、試用期間中の労働条件が本採用後の労働条件と異なる場合は、試用期間中と本採用後のそれぞれの労働条件を明示しなければなりません。
○ 労働条件の水準、範囲等を可能な限り限定するよう配慮が必要です。
○ 労働条件は、職場環境を含め可能な限り具体的かつ詳細に明示するよう配慮が必要です。
○ 明示する労働条件が変更される可能性がある場合はその旨を明示し、実際に変更された場合は速やかに知らせるよう、配慮が必要です。

 

変更明示の方法等について

以下の①~④のような場合に、変更明示が必要となります。

①「当初の明示」と異なる内容の労働条件を提示する場合

例)当初:基本給30万円/月 ⇒ 基本給28万円/月

 

②「当初の明示」の範囲内で特定された労働条件を提示する場合

例)当初:基本給25万円~30万円/月 ⇒ 基本給28万円

 

③「当初の明示」で明示していた労働条件を削除する場合

例)当初:基本給25万円/月、営業手当3万円/月 ⇒ 基本給25万円/月

 

④「当初の明示」で明示していなかった労働条件を新たに提示する場合

例)当初:基本給25万円/月 ⇒ 基本給25万円/月、営業手当3万円/月

 

変更明示は、求職者が変更内容を適切に理解できるような方法で行う必要があります。以下の①の方法が望ましいですが、②の方法などにより適切に明示することも可能です。

 

①当初の明示と変更された後の内容を対照できる書面を交付する方法

②労働条件通知書において、変更された事項に下線を引いたり着色したりする方法や、脚注を付ける

〈注意〉

※変更明示を行う場合でも、当初の明示を安易に変更してはなりません。学校卒業見込者等については、特に配慮が必要であることから、変更を行うことは不適切です。また、原則として、内定までに、学校卒業見込者等に対しては職業安定法に基づく労働条件明示を書面により行わなければなりません。

※変更明示が適切に行われていない場合や、当初の明示が不適切だった場合(虚偽の内容や、明示が不十分な場合)は、行政による指導監督(行政指導や改善命令、勧告、企業名公表)や罰則等の対象となる場合があります。

※変更明示が行われたとしても、当初の明示が不適切であった場合には、行政指導や罰則等の対象となることには変わりありません。

変更明示に当たっては、その他にも以下のような点に留意が必要です。

労働者が変更内容を認識した上で、労働契約を締結するかどうか考える時間が確保されるよう、労働条件等が確定した後、可能な限り速やかに変更明示をしなければなりません。
変更明示を受けた求職者から、変更した理由について質問をされた場合には、適切に説明を行うことが必要です。
当初明示した労働条件の変更を行った場合には、継続して募集中の求人票や募集要項等についても修正が必要となる場合がありますので、その内容を検証した上で、必要に応じ修正等を行うことが必要です。

 

今回の職業安定法の改正によって罰則が強化されています。

労働条件通知書を作成するのは当然ですが、トラブルを避けるためにも、求職票等の労働条件を変更して採用する場合には、採用決定を求職者に伝える前に知らせるべきでしょう。また、変更の内容については、書面交付で、できる限り会って説明するのが望ましいでしょう。