所得拡大促進税制の見直し

所得拡大促進税制は平成25年度税制改正で創設された税制で、平成24年度給与支給総額からの増加額の10%を税額控除できる制度ですが、平成29年度税制改正において、引続き高い賃上げを行う企業を支援するとともに、大企業と中小企業の賃金水準の格差が拡大している中で、高い賃上げを行う中小企業への支援が強化されました。

こちらでは、中小企業の場合について説明していきます。

現行の所得拡大税制では次の3つの要件を満たしている必要があります。

【要件】

  1. 平成29年度の給与等支給額の総額が平成24年度と比較して3%以上増加していること
  2. 給与等支給額の総額前事業年度以上であること
  3. 平均給与等支給額前事業年度を上回ること

平成29年度改正で、上記3の要件について次のように改正されました。

《中小企業の場合》 

賃上げ率が

2%未満の場合

税額控除10%を維持

(雇用者給与等支給増加額×10%)

賃上げ率が

2%以上の場合

雇用者給与等支給増加額×10%+

前年度からの増加額×12%

(合計22%)

※賃上げ率は、次の算式により計算します。

(平均給与等支給額-比較平均給与等支給額)÷比較平均給与等支給額

※この改正は、平成29年4月1日から平成30年3月31日の間に開始する事業年度に適用されます。

 


具体的な例をとって計算していきたいと思います。

①基準事業年度:基準雇用者給与等支給額が1,000

②前事業年度:比較雇用者給与等支給額が1,200

③適用年度:雇用者給与等支給額が1,500

だとすると・・・

(1,500-1,000)×10%+(1,500-1,200)×12%=86

の税額控除ができます。

改正前だと、(1,500-1,000)×10%=50の税額控除にとどまっていました。

 

中小企業の12%上乗せは、事業主の社会保険料負担の増加に対する配慮とも言われています。申告に際しては、税額控除を受けることができるかどうか、今一度ご確認ください。

 


《用語の説明》

(1)雇用者給与等支給額

国内雇用者(法人の使用人のうち国内事業所に勤務する雇用者(雇用保険の一般被保険者でない者も含む。)をいい、法人の役員、役員の特殊関係者、使用人兼務役員を除く。)に対して支給する俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与の額で、当該適用事業年度において損金算入される金額をいいます。
また、給与等に充てるため他の者(当該法人との間に連結完全支配関係がある他の連結法人を含む)から支払を受ける金額(例えば出向負担金)がある場合には、その金額を控除する必要があります。

・給与等に含まれるものの例:賃金、勤勉手当、残業手当など給与所得とされるもの

・給与等に含まれないものの例:退職手当など給与所得とされないもの

※決算賞与については、損金算入される事業年度の雇用者給与等支給額に含まれます。

(2)基準雇用者給与等支給額

平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度の前事業年度の雇用者給与等支給額をいいます。すなわち、平成25年4月1日より前に事業を行っている法人の場合には、平成24年度(個人事業主の場合は、平成25年)の雇用者給与等支給額が基準雇用者給与等支給額となります。なお、基準事業年度の月数と当該適用事業年度の月数とが異なる場合、基準事業年度の雇用者給与等支給額に当該適用事業年度の月数を乗じてこれを基準事業年度の月数で除して計算した金額を基準雇用者給与等支給額とします。

例1:3月末締めの会社の場合
→平成24年4月から平成25年3月までが基準事業年度となります。

例2:12月末締めの会社の場合
→平成25年1月から平成25年12月までが基準事業年度となります。

(3)雇用者給与等支給増加額

適用年度の雇用者給与等支給額(1)から基準雇用者給与等支給額(2)を控除した金額をいう。

(4)平均給与等支給額

雇用者給与等支給額から日々雇い入れられる者に係る金額を控除した金額を、適用事業年度における給与等の月別支給対象者(当該適用事業年度に含まれる各月ごとの給与等の支給の対象となる国内雇用者のうち日々雇い入れられる者を除きます。)の数を合計した数で除して計算した金額をいいます。月別支給対象者について、その月に給与を支給されたすべての人数を合計するため、月途中での退職や採用があった場合にも人数に含めます。

(5)比較雇用者給与等支給額

適用事業年度の前事業年度の雇用者給与等支給額をいいます。なお、前事業年度の月数と当該適用事業年度の月数とが異なる場合、当該前適用事業年度の雇用者給与等支給額に当該適用事業年度の月数を乗じてこれを当該前事業年度の月数で除して計算した金額を比較雇用者給与等支給額とします。

例1:平成25年10月に、3月締めの会社を設立した場合で、平成26年度(12か月)の比較雇用者給与等支給額を計算する場合。
→ 比較雇用者給与等支給額=(平成25年10月~平成26年3月の雇用者給与等支給額)×12÷6

例2:平成25年10月に、3月締めの会社を設立した場合で、平成27年度(12か月)の比較雇用者給与等支給額計算する場合。
→ 比較雇用者給与等支給額=(平成26年4月~平成27年3月年度の雇用者給与等支給額)