印紙税の取扱いと注意点

印紙税は、商売をされている方にとっては身近な税金だと思います。作成した契約書や領収書などの課税文書に所定の金額の印紙を貼りつけ、印紙と文書にかけて印章または署名で消印することによって納付します。この消印は、印紙の再使用を防止するためのものなので、例えば複数の人が共同で作成した契約書であっても、作成者のうち誰か1名が消印を行えば問題ありません。

国税庁は「契約書や領収書と印紙税(平成29年5月)」をホームページに掲載していますので、印紙税の金額等について参考になさってください。

印紙税は文書に課税されるものですが、課税されるかどうかの判断は、当該文書の名称、呼称や記載されている文言により形式的に行うのではなく、実態で判断することになります。例えば「売買契約書」というタイトルになっていても、中身が請負の内容であれば「請負に関する契約」(第2号文書)として扱われます。


印紙税の節税について考えてみたいと思います。

Ⅰ 消費税抜きで表記する

例えば、商品の代金をいただいて領収書を発行する場合、5万円以上となる場合は印紙を貼らなければいけません。

消費税の課税事業者が、消費税の課税対象取引に当たって契約書や領収書などの課税文書を作成する場合に、①消費税の金額を区分して記載しているとき、②税込価格および税抜価格が記載されていることにより、その取引に当たって課されるべき消費税の金額が明らかとなる場合には、その消費税の金額は印紙税の記載金額に含めないこととされています。なお、この取扱いの適用がある課税文書は、次の3つに限られています。

  1. 第1号文書(不動産の譲渡等に関する契約書)
  2. 第2号文書(請負に関する契約書)
  3. 第17号文書(金銭又は有価証券の受取書)

具体的な例をあげて説明すると次のようになります。

(1)広告の請負契約書で税込1,080万円の場合

「請負金額1,080万円うち消費税額等80万円」と記載したとします。この場合、消費税額等80万円は記載金額に含めず、記載金額1,000万円の第2号文書となり、印紙税額は1万円となります。

また、「請負金額1,080万円 税抜価格1,000万円」と税込価格及び税抜価格の両方を具体的に記載している場合についても、消費税額等が容易に計算できることから、記載金額は1,000万円の第2号文書となります。

しかし、消費税額等について「うち消費税額等80万円」ではなく、「消費税額等8%を含む。」や「請負金額1,080万円(税込)」と記載した場合には、消費税額等が必ずしも明らかであるとはいえないので、記載金額は1,080万円と取り扱われてしまい、第2号文書の場合、印紙税額は2万円となります。

(2)金銭の領収書で税込51,840円の場合

「商品販売代金48,000円、消費税額等3,840円、合計51,840円」と記載したとします。この場合、消費税額等の3,840円は記載金額に含めないので、記載金額48,000円の第17号の1文書となります。したがって、記載金額が5万円未満(平成26年3月31日以前に作成されたものについては、3万円未満)の領収書は非課税文書となりますので、印紙税は課税されません。

上記はあくまでも消費税の課税事業者の場合の取扱いになるので、消費税の免税事業者については、消費税の具体的な金額を区分記載したとしても、これに相当する金額は記載金額に含めることになるのでご注意ください。

 

Ⅱ コピーを利用する

契約当事者のどちらか一方のみが契約書の原本を持ち、もう一方はコピーを持つ場合には、そのコピーについては印紙の貼りつけは不要となります。

ただし、次のような形態のものは印紙税の課税対象となります。

1.契約当事者の双方又は文書の所持者以外の一方の署名又は押印があるもの。

2.正本などと相違ないこと、又は写し、副本、謄本等であることなどの契約当事者の証明のあるもの、つまり原本証明をしているもの。

なお、所持する文書に自分だけの印鑑を押したものは、契約の相手方当事者に対して証明の用をなさないものとなるので、課税対象とはなりません。
また、契約書の正本を複写機でコピーしただけのもので、上記のような署名若しくは押印又は証明のないものは、単なる写しにすぎませんから、課税対象とはなりません。また、ファックスや電子メール等により送信する場合も正本等は送付元に保存され、送付先に交付されておらず、送付先で出力された文書は写しと同様であり、課税対象とはなりません。

 

Ⅲ 外国で契約書が作成される場合

印紙税法は日本の国内法なので、その適用地域は日本国内に限られます。

したがって、課税文書の作成が国外で行われる場合には、たとえその文書に基づく権利の行使が国内で行われるとしても、また、その文書の保存が国内で行われるとしても、印紙税は課税されません。つまり、いつ、どこで作成されたものであるかを判断して、課税となるかどうかが決まることになります。

印紙税法の課税文書の作成とは、単なる課税文書の調製行為をいうのではなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これをその文書の目的に従って行使することをいいます。

そのため、相手方に交付する目的で作成する課税文書(例えば、株券、手形、受取書など)は、その交付の時になり、契約書のように当事者の意思の合致を証明する目的で作成する課税文書は、その意思の合致を証明する時になります。

例えば、アメリカの会社A社と日本の会社B社が不動産の売買契約をした場合で、B社が契約書を2通作成し署名押印して相手方B社に郵送し、A社はこれに署名して1通をB社に返送した場合、その契約当事者の残りのA社が署名等するときに課税文書が作成されたことになり、その作成場所は国外なので、当該契約書には印紙税法の適用はないことになります。

ところで、返送された1通の契約書はB社において保存されることになるので、いつ、どこで作成されたものであるかを明らかにしておかなければ、印紙税の納付されていない契約書について後日トラブルが発生することが予想されます。したがって、契約書上に作成場所を記載するとか、契約書上作成場所が記載されていなければその事実を付記しておく等の措置が必要になります。

また、文書の作成方法が逆の場合、つまり、アメリカのA社で課税文書の調製行為を行い、A社が署名等をした上でB社に送付され、B社が意思の合致を証明する場合には、B社が保存するものだけではなく、A社に返送する契約書にも印紙税が課税されることになります。

 


では、本来印紙税を貼らなければならない契約書や領収書などの課税文書に印紙を貼らなかった場合どうなるのでしょうか?

印紙税を納付することとなる課税文書の作成者が、その納付すべき印紙税を課税文書の作成の時までに納付しなかった場合には、その納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額、すなわち当初に納付すべき印紙税の額の3倍に相当する過怠税が徴収されることになります。

具体的に計算してみると、例えば2万円の印紙を貼らなければならない契約書に印紙を貼っていなかった場合、2万円+2万円×2=6万円の過怠税が課されます。過怠税となった6万円は全額が法人税の損金や所得税の必要経費に算入されない(経費にできないイメージ)ので注意が必要です。

ただし、税務調査を受ける前に、自主的に不納付を申し出たときは1.1倍に軽減されます。

また、貼りつけた印紙を所定の方法によって消印しなかった場合には、消印されていない印紙の額面に相当する金額の過怠税が徴収されることになります。

法人税等の税務調査が行われる際は、付随的に印紙税についても確認されることがあるのでご注意ください。

 


次に、あまりないケースかもしれませんが、国等と締結した請負契約書の印紙税の取扱いについてみていきます。

国等(国、地方公共団体、法別表第2に掲げる者)が作成した課税文書については、法第5条により印紙税は非課税になります。

また、国等と国等以外の者が共同作成した課税文書については、国等が保存するものは国等以外の者が作成したものとみなし、国等以外の者が保存するものは国等が作成したものとみなします(法第4条第5項)。

つまり、国等以外の者が所持する請負契約書は非課税文書(印紙税が貼られていない請負契約書)となり、国等の所持するものは納税義務者となる第2文書(請負に関する契約書)として課税の対象(印紙税が貼られている請負契約書)になります。

ちょっと不思議な感覚かもしれませんが、国等が所持する契約書は印紙が貼られたもので、国等以外の者が所持する契約書には印紙が貼られていないということになります。

 

契約書に印紙税を貼り忘れていたとしても、その契約自体が無効になるわけではありませんが、貼り忘れなどには十分ご注意ください。