税務労務お役立ちコラム

大阪の女性税理士・社会保険労務士 阿部ミチルのお役立ちコラム

代表税理士・社会保険労務士 阿部ミチル

大阪の女性税理士・社会保険労務士のお役立ちコラム

海外勤務者の社会保険

前回のお役立ちコラムでは、「海外勤務者の源泉徴収」について触れましたが、今回は、海外勤務者の社会保険料について考えてみたいと思います。

海外勤務者の場合は、①在籍型出向で出向元の国内企業から給与の一部または全部が支払われている場合、②在籍型出向だが国内企業からは給与が支払われない場合および移籍型出向の場合で、その取扱いが異なっています。

まず①の在籍型出向で出向元の国内企業から給与の一部または全部が支払われている場合についてみていきます。

在籍型出向の場合は、日本の企業との雇用関係を維持したまま海外で勤務することになりますが、出向元の日本の企業から給与の一部または全部が支払われているときは、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の被保険者資格は継続することになります。したがって、社会保険料の負担も労使共に生じることになります。

健康保険についてですが、まず海外勤務者が日本に一時的に帰国した際は日本に暮らす方と同様で健康保険を利用することができます。一方、海外でかかった医療費については、いったんは海外勤務者本人が立て替えし、後日申請手続きを行って、一部支給してもらうことになります。

具体的な手続きとしては、「療養費支給申請書」を記載し、領収証明書を添えて保険者に申請します。領収証明書が外国語で書かれている場合には日本語の翻訳文を添付する必要があります。また、海外勤務者からの支給申請は、原則として事業主を経由して行い、支給された療養費は事業主が代理で受領します。したがって、保険者から外国送金は行われません。

また、平成28年4月1日からさらに次の添付書類が必要になりました。

  1. 旅券、航空券その他海外に渡航した事実が確認できる書類の写し
  2. 保険者が海外療養の内容について当該海外療養を担当した者に照会することの同意書

 

次に、介護保険料については、海外では介護保険のサービスを受けることができないので、住民票を除票していれば、介護保険料を支払う必要はありません

雇用保険についても在籍型出向の場合は、継続しますが、失業給付等を受ける場合は帰国した時しか受給はできません。

 

今度は、②の在籍型出向で国内企業から給与が全く支払われていない場合および移籍型出向の場合についてみていきます。

移籍型出向の場合、日本の出向元との雇用関係はいったん終了し、勤務先の国の現地法人等との雇用関係となります。したがって、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の被保険者資格は喪失するため、継続できません。

健康保険を継続させるには、健康保険の任意継続被保険者の手続きを行うことが考えられます。ただし、最長2年までしか加入はできません。

もう一つ、国民健康保険に加入するということも考えられます。しかし、この場合も、国民健康保険は市区町村に居住する人を対象としているため、住民票を除票しているときは加入はできないということになります。

次に、介護保険につていですが、こちらは①の場合と同様、海外では介護保険サービスを受けることはできないので、住民票を除票していれば保険料も不要となります。ただし、国民健康保険に加入している場合は、住民票の除票ができないため、国民健康保険料と併せて介護保険料も納付しなければなりません。

厚生年金も継続できませんが、対応策としては国民年金に任意加入するという選択肢があります。

以上のように、在籍型出向で国内企業から給与が全く支払われていないまたは移籍型出向でも、健康保険を任意で継続したり、厚生年金が継続できないため国民年金に任意加入という手続きもありますので、参考にしてみてください。

海外勤務者の源泉徴収

所得税法上、日本国内に住所がない人や1年以上の居所がない個人は、「非居住者」とされます。したがって、海外赴任の期間が1年以上の海外勤務者の場合、「非居住者」となります。

非居住者に該当する場合であっても、日本国内で働いたことによって支払われた給与については源泉徴収されることになります。つまり、日本に住む給与所得者と同様となります。

一方、国外で働いたことにより日本にある本社などから支払われた給与については、原則として日本の所得税は非課税となるため、源泉徴収もされないことになります。

したがって、日本から支払われた給与であっても、働いた場所(国)が日本なのか海外なのかで違いが生じることになります。

ただし、同じように海外支店に勤務する人でも日本の法人の役員への報酬については取扱いが異なるので注意が必要です。例えば、日本本社の取締役が海外勤務中に受け取った役員報酬についてです。

役員の場合、企業の経営に従事することを職務としているため、役務提供が現実にどこで行われたかを判定するのが通常は困難であると考えられます。

所得税法では、このような役員に対する報酬については原則として国内で働いたものとして、会社側は役員報酬支払時に20.42%(所得税20%、復興特別所得税0.42%)の源泉徴収をすることになっています。

原則は日本から支払われた役員報酬は源泉徴収の対象となりますが、日本から支払われた給与でも源泉徴収されないケースもあります。

  • 海外の勤務先で常時使用人として働いている場合
  • 赴任先の国と租税条約が結ばれていて、異なる取扱いがあるときはその取扱いが優先される

 

もう一つ注意点としては、海外勤務の日本の法人の役員に対して日本から支払われた報酬が日本の源泉徴収の対象になるからといって、その赴任先の国では源泉徴収されないというわけではありませんので、この点については確認するようにしてください。

 

次に、海外勤務者について源泉徴収票は発行するのか?ということについて考えてみたいと思います。

源泉徴収票は「居住者」について発行することになっています。つまり、「非居住者」について発行する必要はありません。では、「非居住者」については何も発行しなくていいのか?というとそうではなく、「支払調書」を作成することになります。(年の途中から非居住者となった場合は、居住者であった期間分については源泉徴収票の作成が必要です)

この非居住者に対して作成した支払調書のうち、国内で働いたものとして源泉徴収した給与等の年間の支払金額が50万円を超える場合(源泉徴収する前の金額で判定)については、支払いをした年の翌年1月31日までに「非居住者等に支払われる給与、報酬、年金及び賞金の支払調書合計表」に支払調書を添付して税務署へ提出しなければなりません。

2015年10月5日現在の住民票の情報に基づいて、2016年1月からマイナンバー制度の運用が始まり、非居住者の支払調書についても、マイナンバーを交付されている方については記載が必要となっています。

このマイナンバーは生涯有効なので、マイナンバー取得後に海外赴任となった場合についても提供されたマイナンバーを使用することになります。

2015年10月5日前から日本に住民票がなかった海外勤務者についてはマイナンバーの交付はされていないので、帰国後に市役所等でマイナンバーの交付を受けることになります。

小規模企業共済のメリット・デメリット

「小規模企業共済」は、常時使用する従業員が20人(商業とサービス業(宿泊業、娯楽業を除く)では5人)以下の小規模な個人事業主や会社等の役員が、事業を廃止した場合や会社の役員が役員を退職した場合などに、それまで積み立ててきた掛金に応じた共済金を受け取ることができる国がつくった経営者の退職金制度です。

月額1,000円~70,000円までの範囲(500円刻み)で掛金を設定できます。

この小規模企業共済のメリットは、

  1. 支払った掛金が全額所得控除の対象となるため節税対策になる。
  2. 20年(240ヶ月)以上積み立てていれば、掛金の100%以上の給付を受けることができる。
  3. 払い込んだ掛金合計額の範囲内で、事業資金などの貸付け担保・保証人不要)が受けられる
  4. 受取時、分割で受け取れば公的年金と同様に雑所得とされ、一括受取りの場合は退職所得となり、それぞれ所得控除が受けられる。

とてもメリットの大きい小規模企業共済ですが、下記のようなデメリットがあります。

  1. 掛金の支払いが12ヶ月(1年)未満で解約となった場合は掛け捨てとなる。
  2. 加入期間が20年未満の場合は元本割れとなる。

 

小規模企業共済は、月額70,000円にすれば年間84万円の所得控除を受けることができ、また、掛金の納付期間に応じて最大120%相当額が戻ってくるという大きなメリットがありますが、納付期間によっては元本割れのリスクもあるの注意が必要です。